

この記事を書いた人/行政書士久遠事務所 代表 猪飼久遠(行政書士/登録番号26191514)
愛知県稲沢市を拠点に、建設業許可の新規取得・更新・決算変更届・経営事項審査を取り扱っています。
「うちは資本金が少ないから許可は無理では」というご相談をいただくことがあります。
結論として、一般建設業の許可であれば、資本金の額そのものは要件ではありません。自己資本が500万円以上あるか、500万円以上の資金を調達できることを示せれば足ります。
一方、特定建設業になると話は変わり、資本金2,000万円以上という明確な基準が加わります。
この記事では、建設業許可の5つの要件のひとつである「財産的基礎等」について、一般建設業と特定建設業に分けて要件を整理し、愛知県知事許可での証明方法と、更新・業種追加のときの取扱いまで解説します。
財産的基礎等とは、建設業を営むうえで必要な資金力があるかどうかを確認する要件です。建設業法第7条第4号(一般建設業)および第15条第3号(特定建設業)に定められています。
建設工事に着手するには、資材の購入、労働者の確保、機械器具の手配など、まとまった準備資金が必要になります。代金を受け取る前に支出が先行する業種であるため、一定の資力がなければ工事を完成させられません。そのために設けられた要件です。
▶一般建設業/請負契約を履行するに足りる財産的基礎「又は」金銭的信用を有しないことが明らかな者でないこと
▶特定建設業/より重い基準が課される(財産的基礎そのものが必要)
特定建設業で基準が加重されているのには理由があります。特定建設業者は多くの下請業者を使って工事を施工することが一般的で、しかも発注者から代金を受け取っていなくても、下請業者には引渡しの申出から50日以内に代金を支払う義務を負っています(建設業法第24条の6)。下請を守るために、元請側により高い財務の健全性が求められているわけです。
一般建設業の許可では、次のいずれか1つに該当すれば要件を満たします。
| ルート | 内容 |
|---|---|
| イ | 申請日の直前の決算において、自己資本が500万円以上であること |
| ロ | 500万円以上の資金を調達する能力を有すると認められること |
| ハ | 許可申請直前の5年間、許可を受けて継続して営業した実績があること |
出典:国土交通省「建設業の許可の要件」(建設業法第7条第4号)
【実務上のポイント】
新規で許可を取る場合、ハの「5年間の営業実績」は使えません。許可を受けていた実績がないためです。したがって新規申請ではイかロのどちらかで証明することになります。まず直前の決算書で自己資本が500万円以上あるかを確認し、足りなければロの資金調達能力に切り替える、という順で検討してください。
自己資本の額は、次のように判断されます。
▶法人/貸借対照表の純資産合計の額
▶個人/期首資本金、事業主借勘定及び事業主利益の合計額から事業主貸勘定の額を控除した額に、負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金の額を加えた額
法人の場合は、決算書の純資産合計の欄を見れば判断できます。「資本金が500万円以上あるか」ではなく「純資産合計が500万円以上あるか」という点に注意してください。資本金が300万円でも、利益剰余金が積み上がって純資産合計が500万円を超えていれば要件を満たします。逆に、資本金1,000万円でも累積の赤字で純資産が500万円を割っていれば、イでは証明できません。
直前決算の自己資本が500万円未満の場合、愛知県では次のa・bのいずれかで資金調達能力を確認します。
| 区分 | 提出する書類 |
|---|---|
| a | 金融機関発行の500万円以上の預金残高証明書(基準日が申請直前4週間以内のもの。初日算入) |
| b | 金融機関発行の500万円以上の融資証明書(発行日が申請直前4週間以内のもの。初日算入) |
▶残高証明書と融資証明書の合算は認められません(残高300万円+融資枠200万円で500万円、という証明はできません)
▶残高証明書が2枚以上になる場合は、基準日が同じものでなければなりません
▶融資証明書は融資残高の証明ではなく、融資可能額の証明です
▶証明書は、様式第20号の3(主要取引金融機関名)に記載のある金融機関から取得してください
【実務上のポイント】
残高証明書は基準日が申請直前4週間以内という制限があります。初日算入で数えるため、余裕があるようで意外に短い期間です。先に残高証明書を取ってしまい、他の書類を揃えている間に4週間を過ぎて取り直しになる、ということが起こり得ます。
書類一式の準備が整い、申請の直前に取得するという順序で進めることをおすすめします。また、複数口座を合わせて500万円にする場合は、金融機関に基準日を揃えて発行してもらうよう最初に伝えておいてください。
残高証明書の具体的な取り方や注意点は、500万円の財産的基礎の証明方法をまとめた記事で詳しく解説しています。
なお、個人事業で事業開始後まだ決算期が到来していない場合は、決算書がないため、この資金調達能力による判断が必要になります。
特定建設業の許可では、申請日の直前の決算において次の基準をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると許可は受けられません。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| ①欠損の額 | 資本金の額の20%を超えていないこと |
| ②流動比率 | 75%以上であること |
| ③資本金 | 2,000万円以上であること |
| ④自己資本 | 4,000万円以上であること |
出典:国土交通省「建設業の許可の要件」(建設業法第15条第3号)、愛知県「建設業許可申請の手引(申請手続編)」
▶欠損の額(法人)/貸借対照表の繰越利益剰余金が負である場合に、その額が資本剰余金・利益準備金・任意積立金の合計額を上回る額
▶欠損の額(個人)/事業主損失が、事業主借勘定から事業主貸勘定の額を控除した額に、負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金を加えた額を上回る額
▶流動比率/流動資産を流動負債で除して得た数値を百分率で表したもの(流動資産÷流動負債×100)
▶資本金(法人)/株式会社の払込資本金、持分会社等の出資金額
▶資本金(個人)/期首資本金
【実務上のポイント】
繰越利益剰余金がプラスであれば、①の欠損は問題になりません。マイナスの場合でも、資本剰余金や利益準備金、任意積立金の合計で吸収できていれば「欠損の額」は生じない扱いです。決算書を見るときは、繰越利益剰余金の数字だけを見るのではなく、純資産の部全体を確認してください。
②の流動比率は、流動資産と流動負債の両方が影響します。短期借入金が多い会社は数字が下がりやすいため、特定建設業を検討している段階で計算しておくことをおすすめします。
新規設立の企業は、創業時における財務諸表で判断されます。このとき見落とされやすいのが、③資本金2,000万円以上と④自己資本4,000万円以上を同時に満たす必要があるという点です。
設立時の資本金を2,000万円に設定しただけでは、自己資本も2,000万円にとどまり、④を満たせません。設立直後に特定建設業の許可を取る予定であれば、資本金と資本準備金を合わせた純資産が4,000万円以上になるよう設計する必要があります。
財産的基礎を満たしているかどうかの判断は、次のとおり行われます。
▶既存の企業/申請時の直前の決算期における財務諸表
▶新規設立の企業/創業時における財務諸表
ただし、資本金については例外があります。
直前の決算期の財務諸表では資本金の基準を満たさないが、申請日までに増資を行うことによって基準を満たすことになった場合には、「資本金」についてのみ、基準を満たしているものとして取り扱われます。
愛知県では、この取扱いを受ける場合に資本金増資の変更届出書(副本)の提示が求められます。
なお、救済されるのは資本金だけです。自己資本4,000万円、流動比率、欠損の額については直前決算で判断されるため、増資で後から満たすことはできません。
愛知県では、個人事業主が特定建設業を新規申請する場合、純資産合計に示された金額以上の預金残高証明書または融資証明書(基準日・発行日が4週間以内。初日算入)が別途必要とされています。法人にはない取扱いですので、該当する方は準備しておいてください。
財産的基礎は、許可を取ったら終わりの要件ではありません。ただし、一般建設業と特定建設業で扱いが大きく違います。
| 場面 | 一般建設業 | 特定建設業 |
|---|---|---|
| 新規申請 | 必要 | 必要 |
| 更新 | 直前5年間許可を受けて継続して営業していれば確認省略 | 毎回4基準の確認が必要 |
| 業種追加 | 許可を受けて継続して5年以上の営業実績があれば省略可 | 必要 |
愛知県のFAQでは、この点について次の取扱いが示されています。
▶一般建設業の新規許可を受けて3年後に業種追加をする場合/5年に満たないため、改めて財産的基礎又は金銭的信用の確認が必要
▶更新手続を忘れて許可が失効し、改めて新規申請をする場合/省略できず、改めて確認が必要
出典:愛知県「建設業許可に関するよくある質問と回答」(令和8年4月1日版)Q3-5、Q3-6
【実務上のポイント】
一般建設業で最初の更新を迎えるとき、許可を受けて継続して営業した期間が5年になるため、通常は確認が省略されます。一方で、許可を失効させてしまうと、この積み上げがリセットされます。改めて新規申請となり、残高証明書の準備からやり直しになるということです。
更新の期限管理は、財産要件の面から見ても重要です。期限や必要書類は建設業許可の更新申請をまとめた記事で確認してください。なお、業種追加については業種追加の要件と手数料をまとめた記事で解説しています。
また、直前5年間には、許可換え新規(申請区分「2」)の場合の従前の許可期間も含まれます。本店を他県から愛知県に移した場合などは、前の許可の期間も通算されます。
特定建設業は更新のたびに4基準の確認があるため、業績が悪化すると更新できなくなる可能性があります。この場合、経営再建中の方については更新に限り特例措置が設けられています。
▶許可の更新の日までに要件を満たすことになる場合、又は申請日までに法的手続等を開始しており、許可の日以降近い将来に要件を満たす可能性が高いと判断できる場合/許可条件を付与
▶更新の日の直前の決算において要件を満たす見込みの場合/財務諸表の提出を受け、要件を満たすことを確認するまでの間、更新を留保
▶会社更生手続開始の申立てをした場合/裁判所の更生手続開始決定がなされるまでの間
▶民事再生手続開始の申立てをした場合/裁判所の再生手続開始決定がなされるまでの間
▶特定調停の申立てをした場合/債務者の当該調停に係る判断が明らかになるまでの間
この特例措置は更新に限られており、新規申請には適用されません。また、適用の可否は個別の事情によって判断されます。愛知県の手引きでも、詳細については管轄窓口に問い合わせるよう案内されています。
決算の数字が基準に届かないおそれがある場合は、更新期限の直前ではなく、決算が確定した段階で早めに確認しておくことをおすすめします。特定建設業の更新ができなくなった場合の影響は、決算が悪いと特定建設業許可はどうなるかを解説した記事で整理しています。
ありません。一般建設業の要件は自己資本500万円以上、または500万円以上の資金調達能力、または直前5年間の許可継続営業実績のいずれかです。資本金の額そのものを問う規定はないため、資本金が少額でも要件を満たすことは可能です。ただし、自己資本(純資産合計)が500万円未満であれば、残高証明書等での証明が必要になります。
残高証明書は基準日時点の残高を証明するものです。証明書の発行後に資金の動きがあることをもって直ちに要件を否定する取扱いは、愛知県の手引きには示されていません。ただし、財産的基礎の要件は請負契約を履行するに足りる資力を確認するものであり、実態を伴わない一時的な資金移動は制度の趣旨に反します。許可取得後も工事を適正に施工できる資金繰りを確保しておくことが前提です。
一般建設業の場合、単年度が赤字であること自体は要件に影響しません。判断されるのは自己資本(純資産合計)が500万円以上あるかどうかです。赤字であっても純資産が500万円を超えていれば要件を満たします。純資産が500万円を下回っている場合は、残高証明書等による資金調達能力の証明に切り替えて申請することになります。
▶財産的基礎は建設業法第7条第4号(一般)・第15条第3号(特定)の許可要件
▶一般建設業は「自己資本500万円以上」「500万円以上の資金調達能力」「直前5年間の許可継続営業実績」のいずれか1つ
▶自己資本とは法人の場合は純資産合計。資本金の額そのものではない
▶特定建設業は「欠損20%以下」「流動比率75%以上」「資本金2,000万円以上」「自己資本4,000万円以上」の4つすべて
▶判断は直前の決算(新規設立は創業時)。資本金のみ申請日までの増資で救済される
▶愛知県では残高証明書と融資証明書の合算は不可。基準日は申請直前4週間以内
▶一般建設業は5年の営業実績があれば更新・業種追加で確認が省略されるが、特定建設業は毎回確認される
▶特定建設業で基準を満たせない場合、更新に限り特例措置がある
財産的基礎は、5つの要件の中では比較的判断しやすい要件です。他の要件と合わせて全体像を確認したい方は、建設業許可の5つの要件をまとめた記事をご覧ください。新規申請の手続き全体は建設業許可の新規申請を解説した記事で確認できます。
決算書を確認して要件を満たしているかを判断するところからお手伝いします。
「この決算書で足りるのか」「残高証明書はいつ取ればいいのか」という確認だけでも構いません。LINEなら夜間・土日も対応します。
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