

この記事を書いた人/行政書士久遠事務所 代表 猪飼久遠(行政書士/登録番号26191514)
愛知県稲沢市を拠点に、建設業許可の新規取得・更新・決算変更届・経営事項審査を取り扱っています。
「現場を任せていた技術者が急に退職することになった」「配置していた技術者が入院した」——工期の途中で技術者が抜けてしまう事態は、どの会社でも起こり得ます。
結論として、配置技術者の工期途中での交代は、その条件について注文者と合意がなされた場合に認められます。ただし、原則は「慎重かつ必要最小限」であり、会社の都合で自由に入れ替えられるものではありません。
この記事では、交代が認められる一般的な条件、交代のときに必要な手続と引継ぎ、そして公共工事での特別な取扱いを整理します。
主任技術者・監理技術者・監理技術者補佐は、施工管理をつかさどる立場にあります。工期途中でこれが入れ替わると、建設工事の適正な施工の確保を阻害するおそれがあるため、国土交通省の運用マニュアルは次の考え方を示しています。
監理技術者等の工期途中での交代は、当該工事における入札・契約手続きの公平性の確保を踏まえた上で、慎重かつ必要最小限とする必要があり、途中交代を行うことができる条件について注文者と合意がなされた場合に認められる。
▶原則は「慎重かつ必要最小限」
▶交代できる条件について、注文者と合意していることが前提
▶合意は書面その他の方法で行う必要がある
かつては死亡・傷病等の「真にやむを得ない場合」に限定されていましたが、建設現場における働き方改革等の観点も踏まえ、あらかじめ条件を合意しておけば交代できるという運用に整理されています。
出典:国土交通省「監理技術者制度運用マニュアル」二-二(4)監理技術者等の途中交代(最終改正 令和7年1月28日)
運用マニュアルは、一般的な交代の条件として次のものを挙げています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 技術者本人の事情 | 死亡、傷病、被災、出産、育児、介護、退職 |
| 契約事項の変更 | 受注者の責によらない契約事項の変更に伴う場合 |
| 工事の場所の移行 | 工場から現地へ工事の現場が移行する場合 |
| 工程上の合理性 | 工事工程上、技術者の交代が合理的な場合 |
【実務上のポイント】
出産・育児・介護が明示されている点は重要です。技術者のライフイベントを理由とした交代は、正面から認められる交代事由です。技術者から相談を受けた際に「途中で抜けられると困る」と抱え込むのではなく、注文者との協議に進む前提で対応できます。
一方で、「別の現場に回したい」「より条件のよい工事に人を充てたい」といった自社の営業上の都合は、ここに挙げられた条件には含まれていません。
具体的にどのような場合に交代できるのかは、書面その他の方法により注文者との間で合意しておく必要があります。
交代事由に該当すれば、単に人を入れ替えればよいわけではありません。運用マニュアルは次の3点を求めています。
▶①交代の時期は、工程上一定の区切りと認められる時点とすること
▶②交代前後における技術者の技術力が同等以上に確保されること
▶③工事の規模、難易度等に応じ、一定期間重複して工事現場に設置するなどの措置をとり、工事の継続性・品質確保等に支障がないと認められること
後任者の資格や経験が前任者より劣る場合、交代が認められない可能性があります。資格の有無だけでなく、当該工種での経験も含めて同等以上といえるかを確認したうえで、注文者に説明できるようにしておく必要があります。
また、交代に当たっては、発注者からの求めに応じて、工事現場に設置する監理技術者等およびその他の技術者の職務分担、本支店等の支援体制等に関する情報を発注者に説明することが重要とされています。
【実務上のポイント】
③の「一定期間重複して工事現場に設置する」は、実務上とても重要です。技術者が退職する場合でも、退職日と交代日をぴったり合わせるのではなく、引継ぎのための重複期間を確保できるスケジュールを組むことをおすすめします。退職の申出を受けた時点で、早めに注文者へ相談を始めておくと、この期間を確保しやすくなります。
公共工事は入札の公平性が問題になるため、より厳格な取扱いが示されています。
▶原則として、元請の監理技術者等の交代が認められる基本的な条件は入札前に明示された範囲とする
▶同等以上の技術力を有する技術者との交代であることを条件とすべき
つまり、公共工事では入札の段階で示されていなかった理由による交代は、原則として認められません。
【実務上のポイント】
発注者によっては、途中交代について独自の取扱い基準(変更理由書の提出、交代後の技術者の入札参加制限など)を定めている場合があります。公共工事を受注する際は、入札公告・特記仕様書に記載された技術者の交代条件を、入札前の段階で確認しておくことが必要です。配置予定技術者を決める段階で、その技術者が工期を通じて配置し続けられるかを見極める必要があります。
次のケースは、会社の都合による交代ではなく、建設業法上必要になる技術者の変更です。
当初は主任技術者を配置した工事で、大幅な工事内容の変更等により工事途中で下請契約の請負代金の合計が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上となった場合、元請である特定建設業者は、主任技術者に代えて所定の資格を有する監理技術者を配置しなければなりません。
ただし運用マニュアルは、工事施工当初においてこのような変更があらかじめ予想される場合には、当初から監理技術者になり得る資格を持つ技術者を置かなければならないとしています。専任特例2号を使う場合は、あわせて監理技術者補佐となり得る資格を持つ技術者も配置する必要があります。
さらに、監理技術者を設置する工事に該当するかどうか流動的な工事についても、工事途中の技術者の変更が生じないよう、監理技術者になり得る資格を有する技術者を設置しておくべきとされています。
監理技術者の配置が必要になる金額の判定については、監理技術者の配置が必要な工事とはの記事で解説しています。
交代とは別に、工事現場への専任を要しない期間に、同じ技術者が他の工事に従事できる取扱いがあります。
| 立場 | 内容 |
|---|---|
| 元請の技術者 | 工事用地等の確保が未了、自然災害の発生、埋蔵文化財調査等により工事を全面的に一時中止している期間に限り、発注者の承諾があれば、発注者が同一の他の工事の専任技術者として従事できる(元の工事の専任を要しない期間内に完了する工事に限る) |
| 下請の主任技術者 | 担当する下請工事が実際に施工されていない期間に限り、発注者・元請・上位の下請すべての承諾があれば、それらがすべて同一の他の工事の専任の主任技術者として従事できる |
いずれの場合も、元の工事の専任を要しない期間における災害等の非常時の対応方法(同じ建設業者に所属する別の技術者が対応するなど)について承諾を得る必要があります。
専任を要しない期間の詳しい内容は、技術者の専任とはの記事で解説しています。
途中交代は手続の負担が大きく、公共工事では認められないこともあります。次の点を着工前に確認しておくことをおすすめします。
▶下請発注額が5,000万円(建築一式8,000万円)に届く可能性があるなら、当初から監理技術者資格者を配置する
▶配置予定技術者が工期中に定年、育児休業、介護休業等を迎える見込みがないか確認する
▶交代が必要になった場合の条件について、契約時に注文者と合意しておく
▶同等以上の技術力を持つ後任候補を、あらかじめ社内で把握しておく
▶配置技術者の工期途中の交代は、条件について注文者と合意がなされた場合に認められる
▶原則は慎重かつ必要最小限で、自社の営業上の都合による交代は想定されていない
▶一般的な交代条件は、死亡・傷病・被災・出産・育児・介護・退職、受注者の責によらない契約事項の変更、工場から現地への移行、工程上合理的な場合
▶具体的な条件は書面その他の方法で注文者と合意しておく
▶交代時期は工程上一定の区切りとし、技術力は同等以上を確保し、一定期間重複配置するなどの措置をとる
▶公共工事では、原則として入札前に明示された範囲の条件に限られる
▶下請総額が5,000万円以上になったことによる監理技術者への変更は、法律上必要な変更であり、予想される場合は当初から監理技術者を配置する
▶工事を全面的に一時中止している期間などは、承諾を得れば他の工事に従事できる場合がある
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