

この記事を書いた人/行政書士久遠事務所 代表 猪飼久遠(行政書士/登録番号26191514)
愛知県稲沢市を拠点に、建設業許可の新規取得・更新・決算変更届・経営事項審査を取り扱っています。
「専任」は建設業法の中でも特に誤解されやすい言葉です。工事現場に張り付いていなければならないと思われがちですが、そうではありません。
結論として、専任とは「他の工事現場の職務を兼務せず、その現場の職務にのみ従事すること」であり、現場への常駐までは求められていません。
そして専任が必要になるのは、公共性のある重要な建設工事で、請負金額が4,500万円(建築一式工事は9,000万円)以上の工事です。この金額も令和7年2月1日に引き上げられています。この記事では、専任の正確な意味と対象工事の範囲を整理します。
建設業法第26条第3項は、公共性のある重要な建設工事に配置する主任技術者・監理技術者は、工事現場ごとに専任の者でなければならないと定めています。
他の工事現場に係る職務を兼務せず、常時継続的にその建設工事現場に係る職務にのみ従事すること。
必ずしも当該工事現場への常駐(施工の稼働中、特別の理由がある場合を除き常時継続的に現場に滞在すること)を必要とするものではありません。
つまり、専任が求められるのは「場所」ではなく「職務の集中」です。その現場の職務に専念していれば、書類作成のために事務所へ戻ることも、打合せのため発注者を訪問することも問題ありません。禁じられているのは、他の工事現場の主任技術者・監理技術者を兼ねることです。
出典:建設業法第26条第3項/国土交通省「監理技術者制度運用マニュアル」
専任が必要になるのは、次の2つを両方満たす工事です。
▶①公共性のある施設もしくは工作物、または多数の者が利用する施設もしくは工作物に関する重要な建設工事であること
▶②工事一件の請負金額が4,500万円(建築一式工事は9,000万円)以上であること
名前から公共工事だけを指すように見えますが、そうではありません。建設業法施行令第27条第1項は、次の施設・工作物に関する建設工事を挙げています。
| 区分 | 対象となる施設・工作物 |
|---|---|
| 公共発注 | 国または地方公共団体が注文者である施設・工作物 |
| インフラ | 鉄道、軌道、索道、道路、橋、護岸、堤防、ダム、河川に関する工作物、砂防用工作物、飛行場、港湾施設、漁港施設、運河、上水道、下水道 |
| 供給施設 | 電気事業用施設、ガス事業用施設、石油パイプライン事業用施設、電気通信事業用施設、放送事業用施設(鉄骨造・鉄筋コンクリート造の塔等)、熱供給施設 |
| 公共的建築物 | 学校、図書館、美術館、博物館、展示場、社会福祉事業の用に供する施設、病院、診療所、火葬場、と畜場、廃棄物処理施設、集会場、公会堂 |
| 民間建築物 | 市場、百貨店、事務所、ホテル、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、公衆浴場、興行場、ダンスホール、神社、寺院、教会、工場、ドック、倉庫、展望塔 |
事務所・工場・倉庫・共同住宅・ホテルなど、民間発注の建築物も広く含まれています。実務上は戸建て住宅を除くほとんどの工事が該当すると考えてください。「民間工事だから専任は不要」という理解は誤りです。
なお、共同住宅に長屋は含まれません。
金額は工事一件の請負金額で判断します。元請の下請発注額ではなく、自社が請け負った金額です。
▶消費税・地方消費税を含んだ金額で判断する
▶注文者が材料を提供する場合は、その市場価格(または市場価格+運送費)を請負契約の額に加えて判断する
▶元請・下請の区別なく、それぞれの請負金額で判断する
下請業者であっても、自社の請負金額が4,500万円以上であれば専任が必要です。
| 金額要件 | 改正前 | 改正後(現行) |
|---|---|---|
| 技術者の専任が必要な請負金額 | 4,000万円 (建築一式8,000万円) |
4,500万円 (建築一式9,000万円) |
※令和7年2月1日施行(建設業法施行令第27条第1項)
出典:建設業法施行令第27条第1項/国土交通省「建設業の各種金額要件や技術検定の受検手数料を見直します」
専任が求められる現場に配置された技術者には、次の制限がかかります。
▶他の工事現場の主任技術者・監理技術者を兼ねることはできない
▶営業所技術者等(旧・専任技術者)は、原則として専任の技術者にはなれない
▶元請の監理技術者等も、下請の主任技術者も、区別なく専任が求められる
営業所技術者等は営業所に常勤して契約締結に関する技術的な職務を担う立場のため、専任が必要な現場の技術者とは両立しないのが原則です。
ただし、令和6年12月13日施行の改正により、一定の要件を満たす場合には営業所技術者等が現場の技術者を兼務できる制度が新設されました。この制度の要件は、営業所技術者等は現場の技術者を兼務できる?の記事で解説しています。
専任は常駐を意味しないため、合理的な理由があれば短期間現場を離れることができます。
▶技術研鑽のための研修・講習・試験等への参加
▶休暇の取得
▶その他の合理的な理由
ただし、次の2つが前提とされています。
①適切な施工ができる体制を確保していること
・必要な資格を有する代理の技術者を配置する
・工事の品質確保等に支障のない範囲で連絡を取りうる体制、必要に応じて現場に戻りうる体制を整える
②その体制について了解を得ていること
・元請の場合は発注者、下請の場合は元請または上位の下請の了解を得ること
【実務上のポイント】
専任の技術者に休暇を取らせる場合、この「了解を得ている」という点が後から問題になりやすい部分です。口頭のやり取りだけで済ませず、代理の技術者の氏名と期間を打合せ記録簿やメール等の書面に残しておくことをおすすめします。発注者からの確認や立入検査の際に、体制を説明できる状態にしておくためです。
出典:平成30年12月3日国土建第309号「主任技術者又は監理技術者の『専任』の明確化について」
専任すべき期間は契約工期が基本ですが、契約工期中であっても次の期間は専任を要しません(元請の場合)。
| ① | 請負契約の締結後、現場施工に着手するまでの期間(現場事務所の設置、資機材の搬入、仮設工事等が開始されるまでの間) |
| ② | 工事用地等の確保未了、自然災害の発生、埋蔵文化財調査等により、工事を全面的に一時中止している期間 |
| ③ | 橋梁、ポンプ、ゲート、エレベーター、発電機・配電盤等の工場製作を含む工事について、工場製作のみが行われている期間 |
| ④ | 工事完成後、検査が終了し(発注者の都合による検査の遅延を除く)、事務手続や後片付け等のみが残っている期間 |
いずれの場合も、発注者と建設業者の間で専任を要しない期間が設計図書または打合せ記録簿等の書面により明確になっていることが必要です。「着工前だから配置していなかった」という説明を後から行っても認められません。
なお、工場製作の過程を含む工事では、工場製作の期間中も主任技術者または監理技術者が管理する必要があります。専任が不要というだけで、配置そのものが不要になるわけではありません。
請負金額が4,500万円(建築一式工事は9,000万円)未満の工事などであれば、主任技術者は複数の工事現場を兼務することが可能です。ただし、各現場で施工の技術上の管理という職務を誠実に行える範囲に限られます。
さらに令和6年12月13日施行の改正により、専任が必要な工事であっても、情報通信技術の活用など一定の要件を満たせば2現場までの兼任が可能になりました(専任特例1号)。
事務所・病院等の施設と戸建て住宅を兼ねた併用住宅については、①非居住部分の床面積が延べ面積の2分の1以下であり、②請負総額を面積比に按分して求めた非居住部分に相当する請負代金額が専任要件の金額基準未満である場合は、戸建て住宅と同様とみなして専任を求めないこととされています。両方を満たす必要があります。
専任は請負金額を基準に判断されるため、契約変更により4,500万円(建築一式工事は9,000万円)以上となった場合は、それ以降は専任の配置が必要になります。増額変更が見込まれる工事では、着工前の段階で専任体制を取れるかを確認しておくことをおすすめします。
別の制度です。現場代理人は請負契約の履行を確保するために置かれる請負者の代理人であり、建設業法上の配置技術者とは根拠も役割も異なります。ただし、監理技術者等と現場代理人は兼ねることができます(公共工事標準請負契約約款第10条)。
▶専任とは、他の工事現場の職務を兼務せず、その現場の職務にのみ従事すること
▶専任は現場への常駐を意味しない
▶専任が必要なのは、公共性のある重要な建設工事で請負金額4,500万円(建築一式9,000万円)以上のとき
▶この金額は令和7年2月1日に4,000万円(8,000万円)から引き上げられた
▶事務所・工場・倉庫・共同住宅なども対象で、戸建て住宅を除くほとんどの工事が該当する
▶元請・下請の区別なく、それぞれの請負金額で判断する
▶注文者が材料を提供する場合は、その価格を加えた額で判断する
▶研修や休暇で短期間現場を離れることは、代理の体制を確保し了解を得ていれば可能
▶着工前・全面中止中・工場製作のみの期間・検査終了後は専任を要しないが、書面での明確化が必要
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